「才能の無駄づかい」――歴史家ルトガー・ブレグマンが問う、エリートの進路

「優秀な大学を出た若者が、コンサルや金融に進むのは、才能のひどい無駄づかいだ」
そう語るのは、オランダ出身の歴史家、**ルトガー・ブレグマン(Rutger Bregman)**だ。
彼の新著『Moral Ambition(道徳的な大志)』では、今の若者がどこにキャリアを向けるべきか、根本的な問いを投げかけている。
目次
■ なぜ最優秀層が「社会的に無益な」職へ向かうのか
「まともな社会であれば、エリート大学の合同企業説明会では、マラリア撲滅や次のパンデミックを防ぐプロジェクトのブースが並ぶはずだ」
ブレグマンはBusiness Insiderの取材でそう語った。
しかし現実には、列をなすのはゴールドマン・サックス、マッキンゼー、カークランド&エリスなど、超一流の金融・コンサル・法律事務所だ。「どうしてこうなったのか」と、彼は憤る。
■ 善意の若者たちが吸い込まれる「才能のバミューダ・トライアングル」
ブレグマンの主張の根底には、「ほとんどの人は本当は善良で、社会のことを気にかけている」という確信がある。
にもかかわらず、多くの若者が自分の良心に従いきれず、**「選択肢を残すために」**金融やコンサルティングの道を選ぶという。
それは未来への不安が理由だ。「高給やブランドではなく、“とりあえず安心できる”という気持ちから選ばれているのだ」と彼は分析する。
だがその選択は、「善良な人材が社会課題に挑戦する可能性を摘んでしまう」という、目に見えない大きな機会損失を生んでいる。
■ 「道徳的な大志」を持て――自分たちの“カルト”をつくろう
ブレグマンが提唱するのは、**「道徳的な大志(Moral Ambition)」**という新たなキャリア観だ。
それは、貧困削減や気候変動対策、公共医療の改善など、「人類にとって本当に意味のある挑戦に、自分のキャリアを捧げる」生き方だ。
その実現には、同じ志を抱く仲間――「大胆な理想主義者」が集まり、自分たちだけの“カルト”をつくる必要があると語る。
ここで言う「カルト」は、盲目的な集団ではない。社会的意義を軸にした、価値観ベースの強固なコミュニティを指す。
■ 何のために働くのか――選択の根底にあるべき問い
もちろん、すべてのコンサルティング会社や金融機関が「社会的に無益」だとは限らない。現に、社会課題の解決に本気で取り組むファームもある。
だが、最優秀層の「デフォルトの選択肢」が高給業界一択になっている現状は、やはり問い直す必要があるのではないか。
「私たちはもっと、ましな世界をつくれる」――
『Humankind(希望の歴史)』でそう書いたブレグマンの声は、今、キャリアに悩むすべての若者へのメッセージでもある。
引用元記事:https://www.businessinsider.jp/article/2506-consulting-finance-waste-talent-graduates-rutger-bregman-moral-ambition-book/